【CM戦略の真相】なぜ日清食品は攻めた広告をするのか?その効果は?

カップヌードルをはじめとして、日清食品のCMは攻めていますよね?奇抜なカップヌードルのCMや、思わず笑ってしまうチキンラーメンの広告は、よく練られた戦略にのっとった「作品」です。単なる遊びではありません。実際に消費者の記憶に鮮明に残り、売上にも貢献しています。
多くの企業が広告代理店の言うがままに無難な広告を制作する中で、日清食品のCMはマーケティング業界からも注目を集めています。実際、多くの賞を受賞してきました。
日清食品の広告戦略の裏側には、緻密な計画と独自の企業文化があります。この記事では、日清食品の攻めたCM戦略の秘密と、それがもたらした効果について詳しく解説していきます。
日清食品のCMが注目される理由
食品業界の広告戦略において、日清食品は際立った存在感を示しています。その理由は単に面白いCMを制作しているからというだけではありません。データに基づいた評価からも、その成功は明らかです。
CM好感度ランキングでの常連
日清食品のCMは、客観的な調査でも高い評価を得ています。CM総合研究所(東京企画)が毎月発表する「CM好感度」ランキングでは、2025年に「カップヌードル」が連続で総合1位を獲得しました。
そして2024年度のCM好感度年間総合ランキングでは、日清食品の「チキンラーメン」が栄えある1位に輝きました。食品関係のCMが1位になったのは調査開始の1989年以来初の快挙だそうです。「カップヌードル」も3位にランクインしているので、上位を独占する形となりました。
一部の調査によれば、日清食品は食品分野においてCM好感度1位を達成しています。この継続的な成功は、CMの内容だけでなく、ブランド自体への好感度にもつながっています。
参考
https://orsj.org/wp-content/corsj/or59-1/or59_1_42.pdf
https://youmaycasting.com/blog/18996/
https://note.com/tsubasatada/n/nbfdedeafd43a
若年層に刺さるユニークな演出
日清食品のCMが持つ最大の特徴の一つは、若年層からの圧倒的な支持です。CM総合研究所による調査では、2023年前後の日清食品CMへの好感度は年代別に見て10代が最も高く、次いで20代と、若年層が上位を占めています。
「テレビ離れ」が進むと言われる若者世代に効果的にリーチしている理由は、以下の点にあると言えそうです。
・ユニークで攻めた表現:「ポポポン ポン スポポン♪」という中毒性のあるフレーズや、セーラー服の女子学生とイカが砂浜を歩くというシュールな展開など、他社には真似できない斬新なアプローチ。
・流行の即時取り込み:「カプセルトイ『FRUITS ZOMBIE』のパロディ」や「強風オールバック」のパロディなど、流行をすぐに取り入れた演出が若者の共感を呼ぶ。
・マルチプラットフォーム展開:テレビCMに限らず、YouTubeなどのデジタルプラットフォームでも積極的に展開し、若者の目に触れる機会を増やしている。
・音楽とリズムの効果的活用:Little Glee Monsterの楽曲「ちょ待って!」のアレンジや、「♪食べてラララララクサ」とCHIHIROの「Lovely Couple」の替え歌など、耳に残る音楽を効果的に使用。
日清食品のCMには「単発のCMでもヒットさせる」力があります。人気CMといえば、「三太郎」「白戸家」などシリーズものが多いのですが、日清食品は一本一本のCMで強いインパクトを残しています。
好感度ランキングで常連となることが強いブランドイメージの構築と売上向上につながっています。
参考
https://youmaycasting.com/blog/17354/
即席麺市場と広告の役割
即席麺は1958年に日清食品が「チキンラーメン」を発売して以来、日本の食文化に深く根付いてきました。その市場は現在日本国内にとどまらず、世界的な規模で拡大し続けています。
国内外での即席麺需要の推移
日本国内の即席麺市場は成熟期を迎えつつも、依然として安定した需要を維持しています。2024年の総需要は前年比0.9%増の59億115万食となり、2年ぶりに増加に転じました。この数字は2022年、2020年に次ぐ歴代3位の規模です。
カップ麺が38億7487万食(前年比0.2%減)とわずかに減少する一方、袋麺は20億2627万食(同3.1%増)と高い伸び率を示しました。物価上昇による節約志向の高まりが背景にあるものと想像できます。
世界に目を向けるとその市場は急速な拡大を続けています。世界ラーメン協会によると、2022年の世界需要は前年比2.6%増の1,212億食で、7年連続で増加し過去最高を更新しました。国別では中国が約4割でシェアトップ、次いでインドネシア(約12%)、ベトナム(約7%)と続き、アジアが市場の約8割を占めています。
金額ベースでは、2023年の世界市場規模は577億3000万米ドルと評価され、2024年は610億8000万米ドル、2032年には982億6000万米ドルに成長すると予測されています。年平均成長率は6.12%と、食品業界の中でも高い成長率を示しています。
日本企業の海外展開も活発です。日清食品ホールディングスは2021年8月に「カップヌードル」ブランドの世界累計販売数が500億食を突破しました。現在は約100カ国で展開しています。東洋水産も世界シェア5位にランクインするなど、日本の即席麺メーカーは世界の老舗として存在感を示しています。
参考
https://news.yahoo.co.jp/articles/897aadadae762e79b8ec8ae12cf48ae5e95ec3e1
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73915670V20C23A8TEZ000/
https://deallab.info/instant-noodle/
https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/業界-レポート/即席麺市場-101452
https://www.nikkei.com/compass/industry_s/0321
https://www.provej.jp/column/tr/instant-noodle/
CMが購買行動に与える影響
テレビCMは購買行動に大きな影響を与えていると言えます。データを見ていきましょう。
参考
https://www.cccbiz.jp/columns/tvdata71
日清食品の「チキンラーメン『食おうぜ!篇』」のCMを例に、CM視聴者の購買にどのような影響を与えたかを見ていきます。性年代別分析では、最も購買リフト値が高かったのは若年男性(M1)、次いで若年女性(F1)、中年女性(F2)でした。特に出演者と年齢が近い若年層への効果が顕著であり、CMの親しみやすさが直接購買意欲を促進したと考えられます。
なおM1、M2、M3、F1、F2、F3の意味は次のとおりです。
M1層:20~34歳の男性
M2層:35~49歳の男性
M3層:50歳以上の男性
F1層:20~34歳の女性
F2層:35~49歳の女性
F3層:50歳以上の女性
参考
https://marketing.seohacks.net/blog/11013/
また興味深いのは、新規購買者と既存購買者での効果の違いです。新規購買者ではCM視聴者の購買率が基準より高かった一方、既存購買者では基準よりも低い結果となりました。つまり、このCMは新規ユーザーの獲得に特に効果を発揮したのです。
購買金額については、若年女性(F1)の購買金額リフト値が最も高いのですが、家族用や自宅ストック用のまとめ買いが多かったのでしょう。一方、購買率が高かった若年男性(M1)の購買金額リフトは低く、CM内容と同様に個人消費向けの購入が多かったと考えられます。
このように日清のCMは具体的な購買行動を促しています。「攻めた」CMは効果を発揮しているのです。
タレント起用がもたらす3つの効果
日清食品の「攻めた」CMの中心には、多くの場合タレントの存在があります。タレント起用は単なる宣伝効果以上の価値をもたらしています。その効果は具体的なデータでも裏付けられています。
人気タレントを起用した広告は、認知獲得のコストパフォーマンスが優れており、同じ広告出稿量でも平均15ポイントも高い認知率を獲得できることが明らかになっています。
参考
https://www.videor.co.jp/digestplus/article/ad-marketing250221.html
ブランドイメージの向上
タレントの持つイメージは、そのまま企業のイメージに直結します。好感度の高いタレントを起用することで、その好印象がブランドにも反映されると考えられています。親しみやすいタレントを家庭向け商品のCMに起用すれば温かみや親近感を、洗練されたタレントであればスタイリッシュで高級感のある印象を与えることが可能だということです。
タレントのイメージと製品のイメージにはマッチしていると広告効果は大きくなります。日清食品も商品の特徴やターゲット層に合わせたタレントを選定し、ブランド全体の価値向上に貢献していると言えそうです。
参考
https://x-i.co.jp/media/commercialmessage-impression/
記憶に残る演出
知名度の高いタレントを起用すれば、それだけ視聴者の印象に強く残るCMになる可能性があります。タレント自身の周知の個性や魅力を活かした演出があると、視聴者に共感してもらいやすくなり、SNSでの拡散効果も期待できるのです。
日清食品のCMも「あのタレントがCMに出ている企業」となるものを目指していることがあります。2025年6月現在も放映しているお笑いコンビ、バッテリィズを起用したCMもその一つでしょう。
参考
https://goldcast.jp/magazine/talent-effect/
売上への直接的な影響
コストが掛かるタレントを敢えて起用するのは売上向上が見込めるからです。実際、タレントが商品を紹介することで、そのタレントのファン層は自然と購買意欲が高まることが確認されています。
ビデオリサーチの「クリエイティブカルテ」によると、人気タレント起用のコストを含めても「認知率1%獲得あたりのコスト」は100万円以上安くなるのだそうです。
また、好感度の高いタレントの起用は「この商品なら安心」「このブランドは信頼できそう」という印象を与え、購買行動のハードルを下げる効果もあるのだそうです。
参考
https://www.videor.co.jp/digestplus/article/ad-marketing250221.html
https://accel-japan.com/columns/column14/
話題になった日清CMの例
日清食品の広告戦略の成功は、具体的なCM作品に現れています。特に近年、視聴者の記憶に鮮明に残るCMが次々と生まれ、話題を呼んでいます。以下に、特に注目された事例を見ていきましょう。
広瀬アリス×ラ王『どーせ買うなら』篇
広瀬アリスとIKKOがコラボした日清ラ王のCMは、6種類の味のバリエーションをユニークに紹介しています。IKKOの「柚子『しお〜〜〜〜!』『塩』とん〜〜〜〜!」という独特の言い回しとの掛け合いも絶妙で、多くの視聴者の記憶に残る演出となっています。
チョコプラ×これ絶対うまいやつ♪
チョコレートプラネットが出演する「これ絶対うまいやつ」シリーズは、その中毒性のあるリズムとフレーズで若者を中心に大きな話題となりました。「これ絶対うまいやつ」「濃い目のスープ」「ワイルドな女」「家族模様のプー」というリズミカルなセリフが特徴的で、SNSでも多くの人がパロディを楽しむほどの影響力を持ちました。
星野源×どんぎつねシリーズ
2017年5月から始まった「どんぎつね」シリーズは、星野源と吉岡里帆のコンビによる演出が人気を博しました。吉岡里帆が狐の耳としっぽがチャームポイントの"どんぎつね"に扮し、星野演じる"どん兵衛を食べる男"とのコミカルなやり取りが特徴です。
このシリーズはCM好感度ランキングでも上位に入り、2021年11月度には自己最高タイとなる総合2位を獲得しました。2022年5月に契約満了により、現在は星野源が板垣李光人に代わりましたが、シリーズは続いています。
強風オールバック×シーフードヌードル
2023年に公開された「夏は食っとけシーフード」篇は、ボカロPのゆこぴさんの楽曲「強風オールバック」とコラボレーションし、CM総研が発表する2023年の作品別CM好感度ランキングで1位を獲得しました。
2024年7月には続編「夏はゼッタイシーフード」篇も公開され、「カップヌードルが売れない!」という逆説的なメッセージと、海辺を歩く少女とイカの奇妙な組み合わせが再び話題を呼びました。
日清のCM戦略の裏側
話題作りの達人として知られる日清食品の広告には、表舞台では見えない独自の制作哲学があります。多くのブランドが広告代理店に依存する中、日清は社内のチーム主導でCMを制作しています。
スピード重視の制作体制
日清食品の安藤徳隆社長は「流行のネタと商品の世界観を掛け合わせて『日清のもの』に変える。そのプロセスを、普通だと数カ月かかることでも2週間くらいのスピードでやる」と語っています。
このスピード感の背景には、わずか25人からなる宣伝部の存在があります。すべての商品のプロモーションを担当するこのチームは、「強風オールバック」のCMを原作公開からわずか4カ月で企画立案から制作まで完了させました。
広告会社に丸投げしない「自前主義」も特徴的です。「25人中25人が面白いものをずっと探している」という言葉が示すように、全員が常にSNSや動画サイトで何がバズっているかをチェックし続けているそうです。
参考
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00628/00071/
面白さを最優先にした方針転換
日清食品が大きな方針転換をしたのは10年ほど前のことです。「面白さ」を最優先する戦略への移行です。この変化が現在の攻めたCM戦略の原点となっています。
とはいえ、社内の一部だけでCMの方針を決めているわけではありません。「御前会議」と呼ばれる会議があり、宣伝部は週に一回、社長を交えた定例会議を開き、新しいCM企画について激論を交わしています。そこでは立場を超えた自由闊達な意見交換がされているとのことです。
参考
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00628/00071/
SNSとテレビのハイブリッド展開
日清食品は「スルメサイクル」と呼ばれるマーケティングフレームワークを採用しています。「空中(テレビCM)→サイバー(SNS)→地上(実店舗)」と展開する戦略です。
CMには思わず検索やSNS投稿をしたくなる仕掛けが盛り込まれており、視聴者が自ら情報を拡散する流れを促します。例えば、「カップヌードル食ってる風Tシャツ」の投稿は、リツイート2万件、いいね2万件を獲得し、実際に商品化されました。
このように日清食品のCM戦略は、スピード感のある制作体制、面白さを追求する方針、そしてマルチメディア展開という三つの柱によって支えられているのです。
参考
https://www.countand1.com/2024/08/nissin-surume-cycle-marketng-communication.html
https://diamond.jp/articles/-/313518
結論:攻めたCM戦略が生み出す圧倒的な成果
日清食品の広告戦略は、単なる話題作りを超えたものです。CM好感度ランキングの常連となっていることや若年層から圧倒的に支持されていることは偶然ではありません。緻密に計算された戦略の結果です。
日清食品の宣伝部は25人の小規模な組織ですが、スピード感と斬新なアイデアによる「面白さ最優先」という哲学によって支えられています。そしてSNSの拡散なども意識して制作されています。
世界の即席麺市場は急速に拡大し続けていますが、国内の即席麺市場は成熟期を迎えています。このような環境下、日清食品の攻めた広告戦略は新規顧客の獲得と購買意欲の創出に大きく貢献しているのです。
本来、攻めた広告はリスクも伴うはずです。しかし、日清食品のCMはそのリスクを上回る効果を創出してきました。ここから学ぶべきことはいろいろあるに違いありません。